事例

マッカーシズム:国家が主導した陰謀論的キャンペーン

1950年代のアメリカで上院議員ジョセフ・マッカーシーが主導した「共産主義浸透」陰謀論キャンペーンと、言論・思想の自由への深刻な打撃

#マッカーシズム#赤狩り#共産主義#浸透型陰謀論#アメリカ#冷戦

概要

マッカーシズム(McCarthyism)は、1950〜1954年に米国で展開した政治的魔女狩りの総称。上院議員ジョセフ・マッカーシーが主導した「共産主義者が米政府・軍・ハリウッドに浸透している」という陰謀論的キャンペーンによって、多数の市民が証拠なく「赤」(共産主義者)の疑いをかけられた。

背景

冷戦の開始(1947年〜)、ソ連の核実験成功(1949年)、朝鮮戦争勃発(1950年)という国際的緊張の高まりの中で、アメリカ国内に「ソ連のスパイが潜伏している」という恐怖が高まった。

1950年2月、マッカーシー上院議員は「国務省内に205人の共産主義者がいる」と演説。この数字の根拠は最後まで示されなかったが、センセーションを巻き起こした。

キャンペーンの展開

**HUAC(非米活動委員会)**を中心に、議会・連邦捜査局(FBI)・マスコミが連携して「共産主義者狩り」を展開:

  • 政府職員・軍人・教師・ハリウッド関係者が次々と呼び出し・尋問
  • 「共産主義者か?」という問いへの拒否は「有罪の証拠」として扱われる
  • 証拠なく名前を挙げることで名誉を傷つける「名指し」文化
  • 職を失い、自殺者も出た
  • ハリウッドでは「ブラックリスト」が作られ多数の映画人が干された

陰謀論研究における位置づけ

分類軸 位置づけ
スケール(Barkun) Systemic conspiracy(共産主義組織が社会を浸透・支配しようとしている)
物語テンプレート 浸透型(Infiltration)の典型
公式性(Coady) 公式陰謀論(上院議員・HUAC・FBIが採用・主導)
政治的指向 右翼反共産主義

マッカーシズムは国家が主導した陰謀論という点でCoady(2006)の「公式陰謀論」の典型例。「陰謀論は反体制のもの」という思い込みを崩す重要な事例。

ホフスタッターとの関係

リチャード・ホフスタッター(1964)の「パラノイア的スタイル」論は、このマッカーシズムを念頭に書かれた古典的研究。「壮大なスケール・敵の完璧な組織化・道徳的決戦の感覚」という3要素は、マッカーシズムのレトリックに完全に当てはまる。

現代への遺産

マッカーシズムは終焉した(1954年、テレビ中継された公聴会でマッカーシーの手法が暴露された)が、その構造は現代の陰謀論に繰り返し現れる:

マッカーシズム 現代の対応物
「共産主義者が浸透」 「ディープステートが潜伏」
証拠なき名指し SNSでの「〇〇はソロスの手先」
HUAC(議会による追及) 陰謀論に基づく議会調査要求
ブラックリスト キャンセルカルチャー(左右双方)

参考文献

  • Hofstadter, R. (1964). The paranoid style in American politics. Harper’s Magazine, November.
  • Schrecker, E. (1998). Many are the crimes: McCarthyism in America. Princeton University Press.
  • Oshinsky, D. M. (1983). A conspiracy so immense: The world of Joe McCarthy. Free Press.